こんなプール、見たことない。
空は青く、雲ひとつない。プールサイドの端には執念だけで生えてるような雑草。色あせた日除けと、ペンキの剥げたベンチ。誰一人泳いでいない水面は太陽の光をこれでもかと反射させていた。
「学校だ・・・」
さんざん世話になった、高校のプールじゃないか。なぜ、忘れていたんだろう。
ざぶん・・・。
音がして、振り返ると、誰かが泳でいた。僕の手にはストップウォッチ。そうだ、いいぞ、その調子だ!そのまま、いけ!よし、自己新だ!!
プールサイドに上がった泳者は僕を見つめた。
「嘘つき」
違う!あれは嘘じゃない。嘘じゃないんだ!信じてくれ、俺は・・・!
泳者は再びプールに潜ると、今度は二度と浮いてこなかった。
ストップウォッチが手から落ちた。

呼吸が荒い。
夢から醒め、心臓がまるで他人のものみたいにドクドク言っているのが聞こえる。
何故、今になってこんな夢をみるのだろう。もう、忘れたと思っていた。完全に記憶から消えていたのに。ナツメ、お前は、まだ俺を恨んでいるんだな。

心の中で呟くと、水を求めて台所へと向かった。
ごくり、と一口飲むと口の中の渇きが潤い、幾分か気持ちも落ち着く。
何故思い出した?
自分が思い出したいのは、こんな記憶じゃない。
では、何を思い出せばいいのか?
コップを置くと、キッチンのシンクに両手をつき、ふう、と大きくため息をついた。
(相変わらず辛気臭いな)
声が聞こえた。今度はうろたえない。
お前はだれだ?
(だから、思い出せっていってるじゃねぇか)
どうしても名乗らないのなら、
(名乗らないのなら?)
俺が見つける。
(いい心がけだ。なんでも人に頼るのは良くない)
頭痛がした。
(そんなお前にひとつヒントをやろう)
ヒント?
(おまえは、望まれて生まれてきた)
それが、ヒント?
(ああ。だが、いまのお前には真実を見つけることは出来ない)
どういうことだ?
(おまえ、自分が何者か知らないだろう)
知りたくもないね。
(じゃぁ、永遠に闇だな)
最初からな。
(お前がそう思ってるならずっと思っておけ)
だから、お前はだれなんだ。
(だからお前はだれなんだ)
俺は、俺だ。
(俺ってだれだ)
誰だ。
(誰だ)
ダレだ。






自分は一体・・・。






目を開けると、天井が見えた。
夢か・・・。
どこからが夢だったのだろう。
自分は誰と話をしていたのだろう。
疲れている、と思った。
起き上がりたくないと叫ぶ自分の体を必死に動かして、シャワーを浴びるためバスルームへ向かう。
昨日のあいつはなんていっていたっけ。



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